大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)2119号 判決

被告人 荻原久男

〔抄 録〕

そもそも、刑法上名誉毀損の罪は、公然摘示した事実が伝聞にかかるものたると、無根のものたるとを問わず、その事実が他人の名誉を毀損するに足ると認め得るものたる限り、成立するのである。ところで、公務員が賄賂をとつたというがごとき事実を公然摘示する所為は、まさに、当該公務員の名誉を毀損するに足るものということができるのであるが、刑法は第二三〇条の二第三項を設け、該事実が真実であることの証明のあつた場合には特に罪の成立を否定することにした。

原判決を見るに、被告人は居村公聴会の席上において参集者約五〇〇名に対し、村長坂本宗博、収入役名取左内その他村議会議員一六名が村役場建築請負人たる伊藤建設工業株式会社社長伊藤忠義から夫々賄賂を収受した旨を摘示したというのである。このような事実の摘示行為は、まさに、村長坂本宗博以下の名誉を毀損するに足るものということができるのであるが、記録を調べてみても、被告人の摘示にかかる右事実が真実であることの証明のあつたものとするに由ないので、被告人の右発言は、まさに、刑法第二三〇条第一項に規定する名誉毀損罪を構成するものというべく、その発言の際に、摘示にかかる事実は伝聞だとことわつたとしても、また、真実であるかどうか知らないと附言したとしても、右犯罪の成立を否定すべきいわれはない。もし、それ、被告人の右発言は居村大衆の村当局者に対する不平不満の声のあらわれであるから、憲法第二一条に保障する言論の自由の規定によつて保護さるべきものだというがごとき主張に至つては、まつたく、独自の見解たるに過ぎない。しかり而して原判示事実は、原判決の挙示する証拠によつて優に、証明することができ、記録を精査してみても、原判決の認定に誤ある廉を見い出しがたいので、原判決が右判示事実に対し、判示法条を適用して被告人を処断したとて、いささかも擬律錯誤の違法を以て論ずべき筋合ではない。

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